新入社員研修 究極の真実〜その一



 「明日、会社を辞めようの会」の会員Iさんが、約一ヶ月の新入社員研修を終えて帰ってきました。

 いよいよ、ビジネスパーソンになったIさんですが、果たして、研修ではどんなことが行われたのでしょうか? その核心に迫り、新入社員研修の究極の真実を暴き出してみようと思います。



(辞めようの会)「どうも、どうも、Iさん、お久しぶりです。」

(Iさん)「どうも、いつもお世話になっております。」

(辞めようの会)「いきなり、社会人になってしまった感じですね」

(Iさん)「恐縮です。」

(辞めようの会)「こちらこそ、今日はお忙しいところ、お時間をとっていただいて恐縮でございます。」

(Iさん)「いえいえ、こちらこそ、ご足労をおかけいたしますが、よろしくお願いしたします。」

(辞めようの会)「もう来てるじゃないですか。」

(Iさん)「恐縮です。」

(辞めようの会)「それじゃ、そろそろ、本題に移らせてもらいましょうか。研修はどうでしたか?」

(Iさん)「まず、一言でいうと、疲れましたね。合宿研修は、山奥のホテルで行われたんですけども、一ヶ月間ずっとホテルに監禁されていたもので、精神的に非常に疲れました。」

(辞めようの会)「山奥といいますと、温泉とかが近くにあるところですか?」

(Iさん)「近くに温泉はありますね。私の泊まっていたホテルにも温泉はありました。大浴場がありまして毎日、露天風呂に入っていました。ちなみに、露天風呂に入っていると、外からジュニアが丸見えです。温泉の前にゴルフ場があって、たまにゴルフをやってらっしゃる方とかがいらっしゃって、ジュニアが見えてしまうわけです。」

(辞めようの会)「ジュニアって何ですか?」

(Iさん)「私の可愛い息子ですよ。」

(辞めようの会)「ところで、研修の一日のスケジュールを教えてください。」

(Iさん)「はい。まず、私は毎朝7時に起床して、朝飯を食べに行きました。朝飯はバイキング形式でした。朝飯を食い終わった後、露天風呂に直行して、息子を丹念に洗いました。八時半から、朝礼で、朝礼では毎日、社歌を歌わされてラジオ体操をやらされました。9時から12時まで午前の講義でした。それから、12時からパワーランチを食べて13時から18時までが午後の講義で、18時から終礼をして、18時半からバイキング形式のパワーディナーを食べて、それからはフリーの時間でした。」

1日の研修スケジュール
7:00起床・朝食
8:30朝礼開始
9:00午前講義
12:00昼食
13:00午後講義
18:00終礼
18:30フリータイム


(辞めようの会)「相当、ハードなスケジュールじゃなかったですか?」

(Iさん)「ええ。ハードでした。講義中に課題などが出されるので、終礼を終わってからも課題をやらないといけないんです。」

(辞めようの会)「例えば、どんな課題ですか?」

(Iさん)「問題集などです。講義を受けた内容についての問題が課題として出されるわけです。例えば、ビジネスマナー研修の講義では、“敬語の使い方”などについての問題を課題として出されました。」

(辞めようの会)「“敬語の使い方”ですか。会社に入ると定番でやらされるものですね。」

(Iさん)「ええ。マナーは“愛”ですから。体裁を気にして行うならば、礼儀とは浅ましい行為である、真の礼儀とは相手に対する思いやりの気持ちが外に表れたもの、礼儀の最高の姿は愛と変わりありません!」

(辞めようの会)「ずいぶんとまあ、一ヶ月で変わりましたね!」

(Iさん)「ええ。変わったかもしれませんね。」

(辞めようの会)「僕自身は、そういった日本の会社的イデオロギーに抗議するために、この“明日、会社を辞めようの会”をやってるんですけどもね、ずいぶんと、これじゃあ、研修ですっかり洗脳されてしまったみたいじゃないですか。」

(Iさん)「確かに、そうかもしれませんね。ただね、マナーもままならないようでは、国際競争の勝者にはなれません。」

(辞めようの会)「会社員時代はね、僕もマナーのことはうるさく叩き込まれましたよ。営業畑にいましたからね。ただ、営業の場合は、声が大きければいいみたいなところがありましたからね、サラリーマンといっても、業界によってかなり違いがありますね。お辞儀の仕方とかは、どうでしたか?」

(Iさん)「研修では、お辞儀の仕方を練習させられました。お辞儀にも色々種類があるみたいでね。会釈敬礼最敬礼など、角度が違うみたいですね。」

(辞めようの会)「最敬礼って、どんなですか?」

(Iさん)「最敬礼は、70度程度傾けるお辞儀なんですけども、特別な感謝、謝罪、依頼等の気持ちを相手に伝えたいときのお辞儀らしいです。私は体がかたいので、最敬礼をするとひざの後ろが痛くなりました。」

(辞めようの会)「クレーム処理の時なんかに使うんですかね、最敬礼は。」

(Iさん)「ええ。クレーム処理の時は、最敬礼のようです。」

(辞めようの会)「ビジネスマナー研修は、全部あわせるとどのくらいの時間数でしたか?」

(Iさん)「丸二日、16時間程度でした。」

(辞めようの会)「ご苦労様です。ビジネスマナー研修を担当された方は、どんな方でしたか?」

(Iさん)「非常に、にこやかな笑顔の絶えない、初老の女性でした。ただ、頑張って笑顔を作っているような感じがして、非常に疲れそうな生き方だと思いました。」

(辞めようの会)「確かに、ビジネスパーソンとしてやっていると、面白くない場面でも笑わなければならないような部分ってありますね。他に、研修で印象的なエピソードってありましたか?」

(Iさん)「そうですね。コミュニケーション講座という講義ですね。この講義を受け始めたときに、講師の人が問いかけてきても誰も返事をしなかったんです。そうしたら、講師の方がキレ始めて、“反応をしっかり返すように!”と怒られました。また、“この研修の主役は講師の私ではなくて、あなた達なんです! ですから、積極参加して、反応をしっかり返して恥を恐れないで研修に参加してください。出来ない人は手を挙げてください。”、と言われました。」

(辞めようの会)「お話を聞いていると、企業社会の悪夢がよみがえるようです。」

(Iさん)「ええ、まさに悪夢でした。講師の方がその後、黒板にこんなことを書かれました。

研修の主役は私達

1、積極参加
2、反応をしっかり返す
3、恥を恐れない


これらを、“ノートの空いてるところに書いてください!”といわれました。
その途端、私のジュニアは震え上がりました。」

(辞めようの会)「企業内ファシズムが、見え隠れしてきましたね。ミクロな部分ですが、日本中のいたるところで、今、Iさんがおっしゃったようなことが行われていると思うんですよ。」

(Iさん)「波風を立てないことと、事なかれ主義は違うらしいんですよ。ただ、どう違うかは私のジュニアが震え上がっていたために覚えていません。」

(辞めようの会)「ジュニアがやたら出てきますね、Iさんのお話は。(笑声)」

(Iさん)「いやね、ほんとにジュニアが震え上がっていたんですよ。」

(辞めようの会)「ほかには、どんなことがありましたか?」

(Iさん)「コミュニケーション講座では、“砂漠で遭難したときにどうするか?”というグループディスカッションがありました。まず最初に、実際に砂漠に遭難したという設定で、生き延びるために必要な品物の順位を一人で考えて決めるわけです。その後、六人くらいのグループに分かれて、そのグループのメンバーで“砂漠で遭難した”という設定で、生き延びるために必要な品物の順位をグループ内で話し合って決めるわけです。」

(辞めようの会)「面白そうな講座ですね。」

(Iさん)「遭難したときに、持っている品物の中に“ピストル”があったのですが、私のグループの中には、一人嫌われ者がいて、生き延びるためには“ピストル”でその嫌われ者を殺そうという案が出ました。(爆)」

(辞めようの会)「それって、社内イジメじゃないんですか。」

(Iさん)「ええ。すでに、社内イジメが始まっていたのかもしれません。ただ、その男は相手の気持ちを考えることが出来ないような男でしたので、仕方ないといえば仕方ありません。その男は自分の意見だけを一方的に言い、人の意見は聞かないような男でした。特に、女性社員に非常に嫌われていました。」

(辞めようの会)「ああ、それは何とも、あわれな話ですね。研修中から、排除されてしまうとは!」

(Iさん)「ええ。まさに“ハブキ”にあっていましたね。」

(辞めようの会)「うーん。」

(Iさん)「・・・・・。」

(辞めようの会)「社内イジメをその場で無くそうとか思わなかったんですか?」

(Iさん)「特に、思いませんでしたね。私も自分のことで精一杯でしたから。」

(辞めようの会)「まあ、仕方のないことです。ただ、あまりにも学校に似た、その社内の状況というのに、どうもやるせない気持ちでいっぱいです。」

(Iさん)「ええ。生存競争はもう始まっているのです。ダーウィニズムです。」

(辞めようの会)「自然科学的な観点から言って、現代のイジメの問題については、どのようにお考えですか?」

(Iさん)「環境に適応できない者は、淘汰されるのみです。私にはそれしか申し上げられません。」

(辞めようの会)「ところで、配属はもう決まったんですね。」

(Iさん)「ええ。決まりました。私は研究開発グループに配属になりました。これからは国際競争の中で勝者となれる商品を開発していかなければなりません。他社も生き残るために必死ですから。弊社も生き残るために必死で研究開発をしていかなければなりません。悠長にしているとあっという間に競合他社に置いていかれる厳しい世界なんですよ。」

(辞めようの会)「日本帝国主義の片棒を担いでいるという意識はお持ちでいらっしゃいますか?」

(Iさん)「弊社は日本帝国とか、そういう島国の中でどうとかという話ではないんです。ヨーロッパ企業やアメリカ企業と競争して勝ち抜いて行かないといけないんです。その競争に負けてしまうと五万人の社員とその家族が路頭に迷うことになってしまいます。ですから、勝ち続けていかなければなりません。五万人の社員のうち、二万人くらいは外国人です。また、海外に工場がいくつもありますので、弊社が倒れてしまいますと、日本人だけではなく外国人の方の雇用もなくなってしまうのです。」

(辞めようの会)「昔は、国益のために、企業戦士という形で、世界と競争してきたという日本企業の歴史がありますが、今はそういう感覚とは少し違うんですね?」

(Iさん)「違うと思います。」

(辞めようの会)「最後に、これからのビジョンをお聞かせください。」

(Iさん)「まず、バリバリ仕事をして、財界とコネを作って、自己資金が貯まったところで会社を立ち上げたいです。町工場からベンチャー企業を始めて、一発当ててアストンマーチンを乗り回したいですね。」

(辞めようの会)「アストンマーチンというと、007ですか? クラシックな趣味をお持ちですね。」

(Iさん)「ええ。007です。ジェームスボンドですよ。きゃっ、きゃっ。」

(辞めようの会)「ゴールデンウィークが終わったら、出勤ですか?」

(Iさん)「そうです。」

(辞めようの会)「本日はどうもお忙しい中、ありがとうございました。」

(Iさん)「いえいえ、こちらこそ。恐縮です。プピー!」
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