新入社員研修 究極の真実〜その三



 工場での研修を終えたIさんへのインタビューの続きです。
 今はどうやらオフィスにて研修が行なわれているようです。果たしてどんな研修内容なのでしょうか。



(辞めようの会)どうも〜、お世話になっておりま〜す。

(Iさん)いや〜、どうもこちらこそ、お世話になっておりま〜す。

(辞めようの会)イヤァ、最近、台風がすごかったですね〜。

(Iさん)いやあ、ほんと、大変でしたよ〜。

(辞めようの会)さっそくですが、前回、どこまでお話しましたっけね?

(Iさん)そうですね〜。先進国がアフリカを黙殺しているというところまでだったかと思います。

(辞めようの会)そう、それです。問題はアフリカなんですよ。

(Iさん)まあでも、アフリカはあまり興味ありません。今、重要なのは中国、インド、ロシア、ブラジルなどですよ。

(辞めようの会)アフリカでビジネスをやろうという気は無いんですか?

(Iさん)現在のところ、全く無いです。それよりも、これからのビジネスで重要になってくるのは、先ほど述べた中国、インド、ロシア、ブラジルですよ。前にも述べましたが、アフリカには資本主義の精神が根付いていませんからね。

(辞めようの会)Iさんが働いてらっしゃる企業でも、重視しているのは中国、インドなどの国々でしょうか?やっぱり、機械製品を扱っている企業さんとなると、手を取り合ってやっていこうという視野の中に、そうした国々が入ってくるんですかね。

(Iさん)そうです。また、先ほど言い忘れましたが、東南アジアの国々も重要です。前にも述べましたが、日本人一人を雇う給料で中国人ですと二十人くらい雇えます。東南アジアの場合も同じようにコストを低く抑えられます。

(辞めようの会)なるほど。まさに、ブルジョア帝国主義企業的精神ですね。

(Iさん)今、成長している国際的な企業はすべて、そのような感じです。

(辞めようの会)私はその現実にどうしても納得がいきません。世界の企業が南の貧しい国々に対してピンハネを行なっているような構図ではありませんか!

(Iさん)アハハハ。そんなことはありませんよ。民間企業は南の貧しい国々と関わらないようにしています。

(辞めようの会)発展途上国と言われている国々に対しても、北の富める国々の企業は、何らかの基準をもって工場建設に踏み切ったりということをしているわけですか?

(Iさん)ええ。もちろん。ある種の基準のようなものはあります。プッピ。例えば、インフラを整えてくれる国や、税負担が軽い国などを選んで工場を建設しています。

(辞めようの会)なるほどなあ。Iさんも将来的にはそうした自社の海外戦略に関わるようになるのでしょうね。

(Iさん)私が経営者にまでのぼりつめれば、関わるようになりますね。

(辞めようの会)Iさんは野心多き者ですよね。

(Iさん)ええ。野心多き者です。あなたの女体に対する野心も私に匹敵すると思いますが、アハハハハ。

(辞めようの会)女体の話は勘弁してくださいな。やはりね、この年になってくると、そうした一切の、つまり、女体だとか肉の欲望といったものがね、とてもわずらわしいものになってくるんですよ。そうではありませんか?

(Iさん)嘘、おっしゃい!あなたはギラギラしているではありませんか。

(辞めようの会)いや、私は自分で自分のことを植物的な、すなわち、「中性的な男」だと思っています。確かに、私にも怒涛の愛の時代がかつてありました。でもね、私もこの年になってね、やっと性的なエネルギーが昇華されて、煩悩が消え去っていくという心地よい感覚を味わうようになったんですよ。

(Iさん)何をおっしゃってる!煩悩の塊とはまさにあなたのことではないか!

(辞めようの会)そうみえますかね。

(Iさん)あなたのお噂はお伺いしています。今でも毎日、女の尻を追っかけているそうじゃないですか。

(辞めようの会)やっぱり、女の尻は大きくなくちゃね。

(Iさん)あなたと私はどうも考え方が違うようだが、それには同意できる。やはり、安産型だね。

(辞めようの会)いやあ、人々の心に形の良い尻を愛でる気持ちが残っていさえすれば、世界はとりあえずは平和であるとね、そんな風に思うんですよ。ただ、ちょっと、ここらで、インタビューの本題に戻りましょう。尻の話をするのが本筋ではありません。

(Iさん)形の良くない尻も、形の良い尻と同様に愛せよ!では、本題に入りましょうか。何なりとご質問ください。

(辞めようの会)ええ、汝、隣人を愛せよですね。良きマスは良き結婚に勝るともいいますからね。さて、、、現在の研修はオフィスでやられているということですが、仕事内容はどんな感じですか?

(Iさん)ざっくり言って、現在の製品をより品質を上げコストを下げるための方法を考える仕事です。

(辞めようの会)提案書などを書いたりしているんですか?

(Iさん)まだ、研修中なので自分で提案書を書いたりはしていませんが、今の研修についている上司は書いたりしているようです。

(辞めようの会)コストを下げるというと、具体的には現場ではどういった改善がなされたりするのですか?

(Iさん)そうですね。例えば、不良品を減らすことです。不良品を出すと、その分、損失になりますから不良品を減らせば、損失を抑えられます。また、現在の製品と同じ性能をより安価な材料で作れないかなどを追求します。ドーン!!

(辞めようの会)実際の仕事のフローはどういう風になっていますか?

(Iさん)そうですなあ。では、現在の製品と同じ性能の製品をより安価な材料で作ろうとする仕事場合でフローを示しましょう。まず、実験を行ないます。安価な材料を探してきて、その材料を使って製品を作ってみます。作った製品の特性等を分析して評価します。その結果が良ければ上に提案して、小量産を行なってみます。小量産の結果、問題が無ければ本格的な量産に移行します。ざっくり言って、このような感じです。

(辞めようの会)すごいですなあ。まさに仕事をしているって感じですね。

(Iさん)ええ。私は仕事人間です。家庭は顧みません。

(辞めようの会)モーレツ社員ですね。

(Iさん)ええ。モーレツです。国際市場では、モーレツな競争が行なわれています。ですから、私どももモーレツに仕事をしなければ生き残れません。

(辞めようの会)いやはや、Iさんは新入社員であるにも関わらず、もう古参のビジネスマンであるかのようなそういった気概を持っていらっしゃる。

(Iさん)いやいや、私なんてまだまだですよ。もっともっと、モーレツにならないといけません。

(辞めようの会)同僚、上司の方でモーレツな方はいらっしゃいますか?尊敬に値するようなモーレツ社員の方は?

(Iさん)モーレツな上司はいます。私も負けていられません。私も早く「あいつは何てモーレツなんだ」と言われるようになりたいものです。

(辞めようの会)いやあ、十分にモーレツですけれどもね、鼻息が荒くてモーレツですよ。

(Iさん)いやあ、私はまだまだですよ。

(辞めようの会)この辺で、オフィス内における労働状況を別の視点で聞いてみたいのですが。もちろん、モーレツな社員であるIさんは関係ないかもしれませんが、よく会社では仕事時間中における社員の「居眠り」の問題というのがあると思うんです。Iさんの会社ではどうでしょうか?

(Iさん)私は当然ながら居眠りをしたことはありません。勤務時間中に眠くなってきたら自分の体に剣山をブッ刺します。ちなみに、勤務時間中は剣山を携帯しています。しかし、他の社員が居眠りをしているところを見たことはあります。

(辞めようの会)まわりの上司たちの反応はどうでしたか?

(Iさん)その居眠りをしていた社員は特別な事情があって、なぜか許されています。特別な事情は自主規制です。

(辞めようの会)そうですか。まあ、このインタビューもすべての真実を明らかにするというわけにもいかず、ここに表現の自由の限界を感じたりもしますが、それでもやはり、触れるべきではないことには触れないというスタンスで、弱腰のジャーナリズム精神に墜するといったところかもしれません。

(Iさん)ある意味、その「特別な事情」というのが究極の真実かもしれません。

(辞めようの会)ところで、週末はどのように過ごされていますか?

(Iさん)主に帝王学を学んでいます。

(辞めようの会)勉強家でいらっしゃいますね。独学ですか?

(Iさん)ええ。独学です。帝王学を教えてくれる塾や予備校は見つかりませんでした。

(辞めようの会)確かにそういった学校は見当たりませんね。国家資格試験の予備校などは山のようにあるのにも関わらず、帝王学だけはどこにもありませんね。

(Iさん)ええ。まったく困ったもんですよ。

(辞めようの会)スポーツなどはやられていますか?

(Iさん)パワーゴルフをしばしば行なっています。パワー。

(辞めようの会)なるほど、パワーエリートになろうとしているIさんとしては、パワーゴルフは必須のスポーツである、と。

(Iさん)ビジネスの世界でのし上がっていくにはパワーゴルフは必須です。たとえ、部長がミスショットをしても、「部長、ナイスショット!」といわなければなりません。それがビジネスです。ビジネス!

(辞めようの会)Iさんはもしや、例えば、休憩室でお茶をしている時とか、ゴルフのスイングをやってしまうような、もうそんな感じの会社員になっていたりしますか?

(Iさん)いいえ、私はゴルフはそんなに好きではありません。ビジネスとしてゴルフを嗜んでいるだけです。パワー!

(辞めようの会)しかし、ご自身の余暇の時間にまで、ゴルフというスポーツが侵食してくるということに対して、疑問を感じたりはしませんか?

(Iさん)もちろん、余暇には自分の時間が持てるに越したことはありません。しかし、ビジネスの世界でのし上がるには、余暇の時間をゴルフに割くというのもいたしかたありません。

(辞めようの会)なるほど。Iさんのおっしゃることはよくわかります。でも、評論家の長谷川慶太郎氏は、麻雀・カラオケ・ゴルフは、おやめなさい。―これからの日本経済とサラリーマンの戦略という本を書かれています。長谷川慶太郎氏は、ビジネスマンにとって非常に明快で分かりやすい本を書かれており、これからのビジネスの指針となるような書籍を次々に出されている方ですが、長谷川氏のその、ゴルフ廃止論についてはどうでしょうか?

(Iさん)私は彼のような三流の知識人は相手にしません。

(辞めようの会)そうですか。それでは、お時間もなくなってきました。最後に一言お願いします。

(Iさん)では、あなたは私のことを生粋の資本主義者だと思っていらっしゃるかもしれませんが、決してそうではありません。私は資本主義が最良のシステムであるとは思っていません。ただ、資本主義と共産主義、あるいは社会主義との二者択一なら資本主義を選ぶというだけです。

(辞めようの会)なるほど。では、資本主義とファシズムであればどうですか?

(Iさん)資本主義には、ある程度のファシズムは必要です。あなたは資本主義と共産主義、あるいは社会主義のどちらを選びますか?

(辞めようの会)資本主義を選びます。

(Iさん)ほほう。そりゃ、いい話だ。

(辞めようの会)しかし、資本主義を選んだとき、この「明日、会社を辞めようの会」の存在意義がよくわからなくなります。だからといって、共産主義や社会主義、あるいは折衷主義も、左翼日和見主義、、、つまり、ナントカ主義というのはもうウンザリなんですよ。しいていうなら、この資本主義社会の中で、会社組織の中で、一般的に「ぶら下がり社員」、「窓際族」と呼ばれている人々を応援したいというのが会の趣向ではあります。

(Iさん)「ぶら下がり社員」、「窓際族」はこれからどんどん淘汰されていくことでしょう。国際社会の流れが、大きな流れがそうなっています。その濁流にもはや逆らえません。

(辞めようの会)ですが、そうはいっても、私は「フーテン族」、あるいは「愚連隊」の味方です。完全な弱肉強食の社会というものが、私には恐ろしい。

(Iさん)弱肉強食の社会。強き者が弱き者の肉を食らう。国際社会の流れが、濁流のように押し寄せてくる、大きな流れがそのようになっています。民間企業レベルでは、手に負えません。それには、政治、政治によって変えるしかありません。

(辞めようの会)本日はどうもありがとうございました。


(次号へ続く)

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