新入社員研修 究極の真実〜その四



 10月で新入社員研修を終えるIさんですが、今日はどんな話が飛び出すのでしょうか。
 Iさんの新入社員研修のラスト・インタビューです。



(辞めようの会)いや〜、どうも〜!

(Iさん)いや〜、どうも。いつもお世話になっております。最近、めっきり寒くなってきましたね〜!

(辞めようの会)ほんとですね。いや、ついこの間、エアコンの暖房を今年初めてつけたところですよ。

(Iさん)ほほう。私はまだ暖房つけてないですね。社服もまだ半袖ですよ。モーレツに仕事をしていますから。長袖だと暑くてね!

(辞めようの会)え!? 半袖なんですか! いや〜、半袖じゃあさすがにこの季節寒いんじゃないですか。すごいモーレツな仕事ぶりですね。仕事に対する姿勢が違いますね。

(Iさん)仕事中は全く寒くないです。この季節に長袖だと本気で仕事をしていたら暑くてしょうがないですよ。この季節に半袖で寒いと言っている輩は、本気で仕事をしていないんだと思いますけどね。

(辞めようの会)いやはや、Iさんの根性には負けました。

(Iさん)いやいや、私の仕事ぶりなんてまだまだヒヨコですよ。まだ、ピヨピヨ鳴いているだけですよ。

(辞めようの会)アジアの虎になるのが目標なんですよね?

(Iさん)ええ、もちろん。ただし、アジアの虎は通過点に過ぎません。

(辞めようの会)最終的な目標地点はどこになりますかね?

(Iさん)最終地点は世界経済のフィクサーです。権力、権力ですよ。

(辞めようの会)また、Iさんの汗臭いビジネススピリットを聞かされることになるわけですか、、、やれやれ。でもまあ、権力を追求するという生き方もそれはそれで潔いと思いますよ。

(Iさん)何をおっしゃってる。聞かされることになるわけですかじゃなくて、その為のインタビューでしょうが! 失敬な!!

(辞めようの会)いや、これは失礼。では、始めましょうか。ここ最近の動きはどうでしたか?

(Iさん)ビジネスの世界で、のし上がっていくための勉強をしていました。

(辞めようの会)聞くところによると、「根回し」の勉強を集中的にやられているとか?

(Iさん)ええ。日本企業において、仕事で成果を出してゆくには根回し、根をまわすことは非常に重要だと思いますね。

(辞めようの会)根回しは「日本企業だけ」のものと限定してもよろしいですかね?

(Iさん)外資系企業での勤務経験はないですが、おそらく日本企業だけなんじゃないでしょうか。

(辞めようの会)やっぱり、先輩社員、上司の方々の振る舞いを見ながら根回しを勉強するような感じですかね?

(Iさん)ええ、そうです。アマゾンで根回しのやり方について書かれている書物は発見できなかったので実地で勉強することにしました。

(辞めようの会)確かに、本で読んで学ぶような事柄ではないかもしれませんね、根回しは。

(Iさん)どうして根回しのハウ・ツー本が無いんでしょうかね(笑)

(辞めようの会)ええ。外国人に日本の文化を紹介するような本に、根回しのことがのっていたりはしますけれども、根回しのやり方を伝授するような本は見当たりませんね。先輩社員方は、どのように根回しをされてますか?

(Iさん)まず、根回し先にアポをとっていました。そして、根回し先に出向き、「ちょっと、ご相談したいことがあるのですが、、、、、。」といって、根回しを始めていました。

(辞めようの会)ご相談という単語に何か秘密がありそうですね。

(Iさん)そうです。ご相談という単語には、おぞましい、おどろおどろしい何かがあります。ご相談を制する者は、ビジネスを制します。

(辞めようの会)その秘密を詳しく解説していただけませんか。

(Iさん)それは言えません。それは企業秘密です。

(辞めようの会)いやあ、ヒントだけでもいただけませんか。例えば、ご相談といったらやっぱり普通であれば、「ただ事ではない」という雰囲気があると思うんですよ。退職時なんかでも、「ちょっと、ご相談したいことがあるのですが、、、、、。」といって、上司に対して退職を切り出すなんてシーンがあると思うんですね。退職なんていう大事のことではなくて、普段のビジネスシーンにおいて、ご相談という言葉が使われるというのはどういうことですかね?

(Iさん)根回しの時の「ご相談したいことがあるのですが、、、、、。」は、退職時のそれのように神妙な面持ちでは無いです。おそらく、退職の時は泣きそうな顔で、「ご相談したいことがあるのですが、、、、。」と切り出すのでしょうが。根回しの時は比較的明るい面持ちで切り出します。これから、何かしてやるぞ!という決意、決意に満ちた面持ちになっています。根回しの時は声のトーンも高いです。

(辞めようの会)なるほど。顔の表情、声のトーンは言葉以上のモノを物語りますね。根回しには何か底知れぬ野心が感じられますね。

(Iさん)ええ。まるで底なし沼のような野心が感じられますよ。

(辞めようの会)根回しの時には、単純に下手に出るということではないんですね。

(Iさん)ええ。単純に下手に出るということではないです。ただ、相手に協力をあおぐわけですから、横柄でもダメです。そのバランス感覚、まるで綱渡りのようなバランス感覚が必要でしょう。どちらに振れ過ぎても、綱から落ちてしまいますからね〜。

(辞めようの会)うーん、難しい。いやあ、お話を聞いていると、そうですね、根回しというのは日本のビジネスマンにとって最も難しく、かつ生き残って競争に勝っていくためには身につけていかないといけない技術のように感じられます。でも、それにしては根回しはそれほど企業社会の表面上は重要視されてないように思われるんですが。仕事の表面ばかりに目が行ってしまって、そういった細かい部分は捨象されているような気がします。

(Iさん)仕事によっては根回しがいらない仕事もありますからね。しかし、他の部署の協力が必要となる仕事では、根回しは必須の技術です。

(辞めようの会)根回し、奥が深いですね。もし仮に、根回しを怠った場合どうなりますか?

(Iさん)それは他の部署の長によると思いますが、最悪、つぶされますね。コテンパンにつぶされるかもしれません。

(辞めようの会)「つぶす」というのは?

(Iさん)「つぶす」という意味はまず、やろうとしている仕事をつぶされるということです。それだけならまだいいですが、最悪の場合、物理的につぶされるでしょう。

(辞めようの会)それは、出世レースからはずされたりといったことでしょうか?

(Iさん)いえ、本当につぶされるのです。つまり、ただの肉塊になるということです。

(辞めようの会)プレス機なんかが使われるんですかね。

(Iさん)ええ。プレス機の間に押し込まれ、プレスされてしまいます。まあそれは最悪の場合ですがね。

(辞めようの会)それにしても、仕事に燃えるモーレツな社員にとって、やろうとしている仕事をつぶされることこそかなり大きな精神的痛手になるんじゃないですか。

(Iさん)ええ。ですから、権力、巨大な権力をいち早く手に入れないといけません。いち早く根回しする側から根回しされる側にならないといけません。

(辞めようの会)Iさんのように野心が旺盛であれば、根回しのような面倒くさいことは嫌になることもあるんじゃないですか。

(Iさん)ええ。そんなところに労力を割きたくはありません。なるべく多くの労力を富の再生産に割きたいのです。富が富を生む構造。その為の権力、権力ですよ!

(辞めようの会)当分は根回しの研究、実践に時間が当てられてしまいそうですか?

(Iさん)ええ、そうなってしまうでしょう。しかし、それが遠回りのようで近道であるのだと思います。

(辞めようの会)確かに、ただ単純に既存の企業文化に反抗するだけであっては協力者は得られないですからねえ。

(Iさん)ええ。権力なき反抗者はつぶされます。

(辞めようの会)あと、2週間ほどで研修が終わるということで、これまでの研修の総括といいますか、学んだことで最大の収穫はどういうことでしたか?

(Iさん)最大の収穫は根回しです。

(辞めようの会)最初の方でお聞きした、山にこもっての研修などはあまり役に立っていないということですかね?

(Iさん)ええ。あんなものは人事の自己満足ですよ。どうせなら、根回しの基本講座などの研修を行なって欲しかったです。

(辞めようの会)うーん。ビジネスの場面の現実において、実際に根回しというものが存在するのにもかかわらず、その講座が無いというのはおかしいですね。やっぱり、根回しの「あうん」の呼吸というか、そのニュアンス、大切さをしっかりと伝えるというのは大事だと思いましたよ。

(Iさん)ええ。名刺を渡すときの笑顔の作り方などは研修でありましたが、根回しの時の顔面の作り方の研修はありませんでしたからね。あの研修は大事な部分がスッポリ抜け落ちていましたよ。

(辞めようの会)根回しの時の顔面の作り方は、言葉にもし表現するとしたらどのような感じですか?

(Iさん)言葉にですか。難しいですな。しいていうなら、まず、「あなたを頼ってきた」という表情、「これから一仕事してやるぞ!」という決意に満ちた表情、そして、その仕事を成功させるという自信に満ちた表情、それらが有機的に混ざったような顔面、でなければいけません。

(辞めようの会)うーん、「済まなさそうな表情」は含まれないですか? あるいは自分をわざと卑下するような、へりくだったような態度を示すようなことはないですか?

(Iさん)へりくだったような表情を織り交ぜる必要はないと思いますが、「お忙しいところ、ご協力いただき恐縮です。」という表情は織り交ぜておいた方がより良いと思います。

(辞めようの会)実に複雑です。ここでもバランスの問題が出てきたような気がします。

(Iさん)ええ。複雑です。まさにカオスといえるでしょう。バランスは非常に重要です。落ちたら即死の断崖絶壁にはってあるロープを綱渡りするような感覚でしょう。

(辞めようの会)根回しの時の顔面の作り方ひとつで、「こいつは出来そうな人間だ!」と評価されるか、あるいは、「やれやれ、ちょっと頼りないな」と判断されるか決まってしまうとは!Iさんは、根回しの時の顔面の作り方を鏡を見ながら練習をしたりしていますか?

(Iさん)私はある俳優さんを見て練習しました。

(辞めようの会)ほう。その俳優さんというのは?

(Iさん)それは津川雅彦さんです。彼の「根回し顔」は超一流ですよ。私も彼の「根回し顔」に少しでも近づくために今現在もトレーニングを怠っていません。

(辞めようの会)なるほど。確かに、津川雅彦さんの顔の表情をみていると、調整役のリーダーという感じがしますね。

(Iさん)ええ。彼の根回し顔は模範ですよ。

(辞めようの会)「相手に舐められてもいけない、しかし、相手の面子をつぶしてもいけない」、、、実に難しいですね、根回しは。

(Iさん)ええ。難しいですよ、根回し学は。ただ、根回しは単なるツールであるということです。根回しが最終目的になってはいけません。根回しは巨大な富を手にいれるための単なるツールなんですよ(不敵な笑みを浮かべながら)。

(辞めようの会)ところで、いよいよもうすぐ研修が終わって実際に働き出すわけです。Iさんの今後の抱負について最後に聞かせてください。

(Iさん)いち早く巨大な富を手にするために、まい進していく次第であります。そして、巨大な富を手にした後には富の再配分をなくすために関係各所に働きかけて行きたいと思っています。

(辞めようの会)政府による社会保障をなくせということですか。

(Iさん)そうかもしれませんね。まず、累進課税を無くす方向に働きかけて行きたいと思います。

(辞めようの会)無茶な話ですよ。

(Iさん)実現してみせますよ(ニヤリとしながら)。

(辞めようの会)ですが、Iさんの構想していらっしゃる未来の社会は、全人口の3パーセントの富裕層にとってのみ有利な社会ということではないですか?

(Iさん)ええ。全人口の上位1パーセントが富の90パーセントを握るこの現実。私はその上位1パーセントを目指してまい進していく次第でございます。

(辞めようの会)僕自身はその考え方にはどうしても納得できませんがね。でも、保守反動の政治勢力がこれからもどんどん力をつけていき、それこそIさんが構想しているような超格差社会が到来するのではないかとも危惧しています。

(Iさん)これからますます富の流動性が悪くなり、固定化していくことになるでしょう。あなたはどうしてその考え方にどうしても納得できないのでしょうか?

(辞めようの会)社会保障、相互扶助の考えだけは捨て去ることは出来ません。やはり、自らがどの立場に立つか?ということが突きつけられてくる問題であり、僕はやはり富める者の側を応援するつもりはありません。

(Iさん)では、あなたは富を手にしたくないと? あなたは聖人君子になるおつもりか?

(辞めようの会)この問題もバランスが大切になると思います。もちろん、富を手にしたくないわけではありません。しかし、富を独り占めにしたいという欲望もない。それだったら、相互扶助の社会で、失敗者にも受け皿があるような社会の方がいいです。

(Iさん)パイは限られている。失敗者も再び事業を起こし富を手にすればよい。しかし、私は自分で手にした富を人に分け与えるつもりはない。

(辞めようの会)なぜ、そんなにケチンボなんですか? 墓場まで金は持っていけないですよ。

(Iさん)いやいや、地獄の沙汰も金次第っていいますからナア!

(辞めようの会)そろそろお時間になりました。いやあ、Iさん、半年ほどの間でしたが、どうもインタビューをさせていただき、ありがとうございました。

(Iさん)え!? もう終わりですか? もっと色んな質問をどんどんしてくださって結構ですよ。

(辞めようの会)そうですが、今回のインタビューはこれで終わりです。またの機会がありましたら是非よろしくお願いします。

(Iさん)そうですか。では、最後に一つ、質問をしてよろしいかな?

(辞めようの会)だめです。

(Iさん)一つくらいいいじゃないですか!

(辞めようの会)だめったらダメ!

(Iさん)シャー、コラ!!てめえ、この野郎、いてまうぞ!

(辞めようの会)紳士面の下に、チンピラが隠れていましたね!

(Iさん)シャー、コラ!!なんじゃコラ!

(辞めようの会)それではまた。

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